2010年11月22日月曜日

冬野灰馬の『めかのめ』 第一回 COMPOSITEVer.Ka テムジン(バンダイ アクションフィギュア)

『めかのめ』は、冬野灰馬が独断と偏見で昨今の面白メカ物件を紹介していくコーナーです。
今回はバンダイから発売のアクションフィギュアを紹介いたします。

■セガバンダイ、なんていう冗談がそろそろ通じなくなってきたような2010年、しれっと発売されたこのフィギュア。スタイル良し、可動良し、付属品良しでいい所づくめの非常にすばらしい商品だと思います。デスクトップで往年の活躍シーンを再現されている向きも多いのではないでしょうか?

全体的に手堅くまとまったこのプロダクトですが、スタイリングはここ最近のハセガワ・コトブキヤ連合によるハイエンドCGモデルの『リバースコンバート』※1路線とは一線を画して、ゲームモデルに近いシャープなアプローチになっているのが興味深いところです。

■バーチャロンといえば、ゲーム以外に莫大な量のコンテクストが存在するのも魅力の一つ。また、その出自からか、模型との親和性も非常に高く、当初から立体造形物に関しても様々な方向性が探られてきたのはファンの皆さんならご存知の通りでしょう。

カトキ氏による設定画、ゲームモデル、ハイエンドモデルと、ソースになる「かたち」だけでも三種類もあるのがバーチャロンの特徴でもある訳ですが、『決定稿』という言い方を巧妙に避けることで、イメージの固定化を逃れる工夫をしてきたのもこのシリーズの個性と言えるのではないでしょうか。




■ここ最近、ゲーム本体部分のリリースが途絶えている※2状況でしたが、代わりにプラモデルのリリースが多数あり、そこでクローズアップされた『ハイエンドCG』バージョンが、シーンにおいて非常に高いウェイトを占めていたように思います。

ところが、このフィギュアでは前述の通り『ハイエンドCG』とはまた異なったアプローチが試みられているのが実に興味深いところです。発売に際してのHJ誌での対談でカトキ氏は『表層はいくらでも交換可能』と言っていますが、個人的には表層よりも一枚深いレイヤーに踏み込んだ表現をこのフィギュアに見ました。それは、『黒い部分』の表現の変化です。

■『黒い部分』とは、ハイエンドCGモデルの表現が進化していく過程で発見された手法である、というような事がハセガワのCG集等でモデラーの森氏によって語られている訳ですが、このフィギュアでは『黒い部分』の殆どに実体のあるディテーリングが施されています。

個人的にはバーチャロンのグラフィックにおいて、これは大きなエポックだと思っていて、『フォース』360版の発売を控えたタイミングでコレが発売されるという事には『ネクスト』に繋がる大きな意味があるなぁと思った訳です。

■そもそも『黒い部分』はバーチャロイドという存在を描写する際のディフォルメーションの手法として導入されたものだと思うのですが、CGを構築する時には同様に様々なディフォルメが施されているのが常です。バーチャロンでは『72分の1スケールのプラモデルとしての実感の追求』というアプローチで製作したものが『ハイエンドCG』として取り扱われている訳です。

過去のHJ誌での連載『ワンマンレスキュー』でも『サンダーバード的リアル』という言葉でフルスケールではないアプローチである事は強調されていた訳ですが、個人的には近年、バーチャロンのプラモデル的表現は様式美化してしまい、退屈な印象にも見えていました。

■最初にOMG※3が出た当時のCG環境っていうのは実にささやかな物でした。その中で出来たことの範囲というのは自ずと限定されたものになってしまう訳ですが、その中で他のアニメやプラモデルと同様のリッチなムードを出すためにはどうしたらいいのか?がバーチャロンの戦いの一つだったのではないか?と思います。

その限定的な、言わばハンディキャップマッチのような状況下であれだけ完成度の高いコンテンツを作ってきたスタッフ陣には素直に頭が下がる訳ですが、残酷な事にCGの表現環境の進化の速さは恐ろしいくらいで、デビュー当時にアレほどセンスの面で差が付いていたハズの『アーマード・コア』シリーズの近年のムービーを見ると、その『違い』に愕然としてしまうのも事実なのです。

■話がそれました。バーチャロンが隠蔽(笑)してきた『黒い部分』になぜ僕が不満を感じてしまうのか、それはやはりバンダイのプラモデル、MGシリーズの存在があるからだと思います。どう否定しても、やはりガンダムとの相補関係抜きにバーチャロン(のデザイン)は語れないように思うわけです。

MGシリーズはご存知のとおり内蔵されたフレーム構造とシルエットを成す外装甲が複雑にレイヤリングされたプラモデルなんですが、最近は装甲の隙間にチラ見えするメカディテールをどう作るかがチャームポイントの一つとして機能しているように思います。バーチャロンにおける『黒い部分』も本来はこういうものではないのか?という補完材料がガンダム側からどんどん供給されていたのがここ数年だった、とも言えるかもしれません。

■面白い事に実はバーチャロンはOMGの頃からこのフレームと外装の組み合わせで成立していたデザインなんですよね。オラタンではこれが更にVアーマーとしてゲームシステムでも重要な位置を占めているんですが、フレームと外装にはデザイン上の密接な関連性はゲームからは読み取れませんでした。

ハセガワから発売されたテムジン747JのCG集※4を見ると、ここではかなり明確にこの構造が形成されているのが分かるんですが、個人的にはシリーズを通して全てのバーチャロイドがこういう構造なんじゃないのかな?と思ったりする訳です。

■もちろん、仕事としてCGをやっている人間としてはあれがどれくらい大変かが分かる訳で(笑)パブの一環としてやるには大変過ぎるし、ましてや過去のハイエンド版まで補完するなんて、とてもとても…。とも思う訳です。

でも、ここ数年の『リバースコンバートラッシュ』で現行の『ハイエンドCG版』が一種の聖典化している傾向に関しては、メカの楽しみ方としてちょっと歯がゆい思いもあったのも事実。

そんな中発売されたこのフィギュアのアプローチは実に的確で、『フォース』移植版発売を前に良いアップデートになった、という印象を持ちました。
■画像はテムジンで最も大きな面積だった『黒い部分』のアップです。
装甲と外装のスキンコンシャス感が表現されているのがお判りでしょう。
■このフィギュアには『黒い部分』に関するディテールの他にもアキレス腱部分のフレーム形状や、靴の分割可動(スリッパの割り方)など見せ場が多数あるんですが、個人的に注目しているのは全身に追加されているプリント基板状のメカディテールです。

カトキ氏の画稿を見ると、このディテールには厚みが存在しておらず、純粋に表層的なものであることが見て取れます。しかも、製品に施されたタンポ印刷では銀色も使われているのが面白い。

■バーチャロンシリーズはテクスチャマッピングに関してはあまり目立たないイメージがあります。ハードの制約でテクスチャをリッチに使えない時期にビジュアルイメージを固めたせいもあるんでしょうが、どうしても質感表現的には進んでいるという印象はありません。

そこに前述の銀色の話が関わってきます。銀であることがどういう意味を持っているかというと、タダの『白』の場合は単なるテクスチャマッピングで実現できるんですが、『銀』っていうのは質感が関わってくるのでCG表現的に一歩突っ込んだ内容になる※4、という事です。

■フレームと装甲表現に加えて、各部分の質感表現の違い、更には一つの質感に多数の素材がコンポジット(まさに!)されているような複合素材さえも取り込んだNEXTバーチャロンの萌芽をこのフィギュアに見たように思います。

っていうか、そういうのが見たいので、是非是非。期待しております。>ワークスの皆様。

※1 リバースコンバート
・バーチャロン用語。バーチャロイドは仮想空間から実体化したもの(大意)、という設定。

※2 リリース状況
・移植版がPS2とXBOX360に発売されていたが、完全新作は2001年の『フォース』以来発売されていない。

※3 OMG
・オペレーションムーンゲートの略。1995年リリースの初代バーチャロンの略称。

※4 CG表現
・『銀』というのは色ではなく質感であるので、単純なテクスチャマッピングでは表現することが出来ない。ポリゴンを分割する事によるマルチマテリアルの場合、複数の層状に質感を表現できない。
このフィギュアのようなデカール表現をするだけでも、実はマルチマテリアルの設定が必要だったりする。